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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)249号 決定 1957年12月07日

抗告人 駐留軍要員健康保険組合

訴訟代理人 日笠豊

相手方 羽賀田寛司 外二名

主文

原決定を取消す。

右当事者間の神戸地方裁判所昭和三一年(ヨ)第四六〇号動産仮差押事件につき抗告人が供したる各保証はこれを取消す。

理由

本件抗告理由は別紙のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は、つぎのとおりである。

本件記録ならびにこれに添付せられた本件当事者間の神戸地方裁判所昭和三一年(ワ)第一四〇号事件記録中の判決及び判決確定証明によれば、抗告人は、相手方等に対する金千二百万円の共同不法行為による損害賠償債権の内各金五〇万円につき、各金一〇万円の保証を立て動産仮差押決定をうけたところ、本訴に於て相手方等三名連帯して金一〇〇万円を支払うべき旨の判決をうけ、右判決確定したことを認めることができる。

この場合、右の仮差押決定をもつて、相手方に対しそれぞれ金五〇万円迄合計金一五〇万円の動産仮差押をなしうるのであり、右本訴判決のあつた相手方等の各金一〇〇万円の連帯債務については、それぞれ金一〇〇万円まで動産差押をなしうるものであるが他の連帯債務者との関係においては民訴五六四条第二項の超過差押の禁止はこの場合に適用ないと解すべきである。けだし連帯債務は、各債務者がそれぞれ全額の債務を負担するのであつて、ただ各債務が共同の弁済目的を有するため、一の債務の弁済等により他の債務者の債務も当然消滅することとなるにすぎないからである。もとより他の債務者に対する動産差押換価により、しかも他に配当加入なきため全額の弁済確実なごとき場合に、なお差押換価の手続を維持続行することが執行手続の濫用として、制限をうくべきことあるは当然であるが、右は、前示法条や民訴五七八条のがんらい関するところではないと考うべきである。

そして右のごとく合計金一五〇万円以上の本差押が可能である以上、金銭債権はどの部分を採つてみても価値ひとしきものであるから、本件仮差押の各金五〇万円の債権が本案の損害賠償債権各一〇〇万円以外の部分にあたると強いて解する必要はない。むしろ右仮差押は右のごとく確定した判決による損害賠償債権の執行を保全したものと解すべく保全の必要も反証なきかぎり当時具備したものと見るべきであるから、本件保証取消の申立は担保の事由止みたるものとして正当というべく、右申立を棄却した原決定は失当であり、取消を免れない。

よつて、民事訴訟法第四一四条第三八六条を適用し、主文のように決定する。

(裁判長判事 沢栄三 判事 井関照夫 判事 坂口公男)

抗告理由

一、抗告人は、相手方三名に対し、相手方等が、抗告人の事務職員として、兵庫支部に勤務中共謀して、抗告人に加えた、壱千弐百万円の損害金の内、各五拾万円につき、その請求権を保全するため、有体動産に対する仮差押の決定を受け、この決定に基き仮差押の執行をした。(執行の結果井関治重の仮差押物件の見積価は二一、七六四円、羽賀田寛治の同一八、〇〇〇円、妻崎忠雄の同六、一〇〇円であつた。)

二、抗告人は、本件仮差押申請の際は、相手方等三名に対し、三名が連帯責任を以て百五拾万円の支払いをすべき旨の仮差押申請をしたが、決定前申請の趣旨を変更し、相手方等は単独で各自五拾万円の支払いをすべきことに改めたから、仮差押の被保全権利は、損害賠償請求権壱千弐百万円の内各五拾万円宛となつたものである。このことは、仮差押決定書を見れば一目瞭然たる次第である。

三、本件のように、相手方三名に対する仮差押を一通の申請書でする場合に、法律的にいえば主観的申請の併合である。主観的申請の併合の場合に於て、所謂必要的申請の併合の場合を除くの外、各当事者は独立して、相手方に相対峙するものであつて、被併合者の一人に対する権利の存否は、他の被併合者の権利の存否に影響はないものである。これを本件についていえば、相手方羽賀田、妻崎に対する債務の存否は、相手方井関に対する債務の存在に影響なく、相手方井関、妻崎に対する債務の存否は、相手方羽賀田に対する債務の存在に関係のないものである。相手方妻崎の債務についても亦同様である。而して、本件は必要的申請の併合に該当しないことは明かである。

四、原決定は、「被保全権利の一部たる金五拾万円の損害賠償請求権は、右申立人(抗告人)勝訴にかかる事件の訴訟の目的に包含されていないものといわねばならず」と説明しているが、これは併合申請の性質を誤解し、本来無関係であるべき、他の相手方二名に対してなした、請求権保全の金額を合算しているからであつて、かくの如き合算は全く理由のないものである。

五、抗告人が相手方等に対してなした、神戸地方裁判所昭和三一年(ヨ)第四六〇号仮差押は、前にも一言している如く、相手方等に対して有する損害賠償請求権壱千弐百万円の内各五拾万円の請求権を保全するためになしたものである。而して其後抗告人は神戸地方裁判所に対し、相手方等を共同被告として損害賠償請求権壱千弐百参万九千百六十三円の内金壱百万円を、相手方等に於て連帯して抗告人に支払うべき旨の請求訴訟を為し、請求通りの判決を受けその判決は確定しているものであるからして、右判決によつて抗告人のなした金五拾万円の請求権保全の仮差押金額は適法であつたことが、確認されたものであるといわなければならない。よつて、抗告人が右仮差押の保証として提供している、金拾万円宛は、保証の事由が止みたものとして、保証取消の決定がなされるべき筈であるに拘らず、抗告人がなした、本件保証取消の申立を棄却した、原決定は違法であるから、これを取消の上、御庁に於て改めて保証取消の決定あらんことを請求するものである。

補充抗告理由

連帯債務は、債務者の数に相当する、数個の債務が成立するものであることは殆んど学説の一致しているところである。

民法第四百三十二条に依ると、債権者は連帯債務者の全員に対し、同時に全部の履行の請求ができることを規定している。而して、この履行の請求の内に強制執行を含むことは勿論のことである。(民法第四四一条、破産法第二四条)

抗告人は神戸地方裁判所昭和三二年(ワ)第一四〇号損害賠償請求事件で相手方等は連帯して抗告人に対し金百万円支払うべき旨の判決を得て、

右判決は確定しているからして、抗告人は相手方三名に対し、同時に百万円宛参百万円の強制執行をなし得る権利を取得しているものである。

抗告人が、原審で相手方等に対し、仮差押の決定を受けたのは金五拾万円宛である。原決定はこの五拾万円宛を合算し、百五拾万円に対し、百万円の確定判決では、五拾万円不足するではないかという理由で、保証取消の申立を棄却しているが(この合算が何等の根拠のないことは、抗告理由第四に於て申述している通りであるが)原決定流に計算するときは、抗告人が相手方に対して取得している執行可能の金額を合算するときは百万円宛参百万円となる次第である。この参百万円の請求権を保全するため、合計百六拾万円の仮差押決定を得たからといつて、何等不法の点はないものであつて、原決定のいうが如く、被保全権利の一部たる金五拾万円が訴訟の目的に包含されていないというが如き理由は、どこからもでて来ないものである。

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